相子智恵
枯に手を置けばすみずみまで眠し 飯田 晴
句集『ゆめの変り目』(ふらんす堂 2018.9)所収
とりとめのない大きな〈枯〉の世界と、そこにそっと置かれた〈手〉という小さな具象。手を置いたのは、実際には一本の冬枯の木であったりするのだろうが、そこは省略がきいて、茫漠と〈枯に手を置けば〉となっているところがいいな、と思う。
それによって、枯の一端に置かれた手を媒介に、木の枯、草の枯、地の枯、水の枯…すべての枯れたものたちの寝息を芋づる式に吸い込んで、同期していくさまが心に浮かぶのである。その寝息の静かな引力が、自分の体をすみずみまで眠りに誘う。これが芽吹きや夏の頃ならば、置いた手から体のすみずみまで力が行きわたることになるのだろうけれど、冬であるところがまたいい。
冬の自然から眠りをもらう手の、そこから体のすみずみまで行きわたった眠気の、なんと安らかなことだろう。
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