2018年12月8日土曜日

●土曜日の読書〔てがみ〕小津夜景




小津夜景







てがみ

いつだったか、近所を歩いていて、生垣の蔭にぶら下がっている手づくりの郵便箱を発見した。

郵便箱の正面には、たどたどしい字で、
おねがい
ここに  てがみを いれてください
みんなのてがみ とどけます
げつ・すい・きんは おやすみです
と、黒いマジックで書かれている。

子供は手紙に憧れるものだ。可愛いなあと快い気分でいたら、郵便箱はその生垣の家に住む5歳の男の子のもので、かつて一度も手紙が入っていた試しのないことを近所の立ち話で知った。

えらいことを知ってしまったと慌て、絵葉書に本物の切手を貼って男の子の郵便箱に投函したのがつい昨日のこと。で、今朝その生垣を見にゆくと、郵便箱がない。どこにも。うーん。まさか本物の手紙が入っていたせいで、怖くなって外してしまったのだろうか。

子供と手紙といえば、中川李枝子他『こんにちはおてがみです』(福音館)はしゃれた仕掛け絵本だ。頁には10通の封筒が貼られ、その中に福音館選りすぐりの10冊の主人公からの手紙が入っている、たとえばこんな書き出しの。

「ぼくらのなまえは ぐりとぐら このよでいちばん すきなのは おてがみかくこと もらうこと」。

この文面は『ぐりとぐら』の「ぼくらの なまえは  ぐりとぐら  このよで いちばん  すきなのは  おりょうりすること たべること」の替え歌だ。ああ、なんという良き日常。

10冊の中には佐々木マキ『やっぱりおおかみ』もあった。子供って孤独でシニカルな存在者だから、おおかみくんへの愛は至って当然だろう。


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