樋口由紀子
水車小屋戸が開いている一人いる
房川素生 (ふさかわ・そせい) 1900~1969
水車小屋を近頃はあまり見かけない。水車小屋のある田園風景は人を惹きつけ、水車小屋自体にも風情がある。目の前の世界がひょいと別の世界につながっていくような気もする。そんな水車小屋を見つけた。近づいてみると戸が開いている。もっと近づいてみると、中の様子が見えて、人がいた。水車小屋は景観のためのものではなく、水車によって製粉などの機械的の工程を駆動する場所である。そこで人は仕事をしている。
景の発見や目の動きが五七五のリズムや呼吸に合わせてつぎつぎと運ばれていく。そして、最後に「一人いる」。そこに人を見つけたことで俄然と生気を帯びる。人がいることでもたらせる安堵感、豊かさと親しみを感じたのだろう。人を詠んでいる。
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