樋口由紀子
押入のついでに拭きたかった肺
福田山雨桜 (ふくだ・さんうろう) 1898~1955
押入れは普段は襖を閉めて真っ暗なままで、たまに拭き掃除することがある。すると埃のかぶっていた押入がみるみるきれいになる。それと同じように自分の肺もさっさと拭いたきれいにしたいと軽く言っているように見えるが、切実な願望なのだろう。
「ついでに」という控えめな語気に泣けてくる。私もついでにとか、暇なときにとかに、しようと思うことがある。でも、作者はそんな簡単な願いではなく、レベルも桁が違う。もっと深刻であり、せっぱつまっている。一般的な「ついでに」ではなく、思いの強さが込められている。
山雨桜は肺結核を患っていて、ながい闘病生活の末に57歳の若さで亡くなった。「川柳の子規」と評されたこともあるらしく、病床生活が作句に大きく影響を与えた。〈寝て四年子規に劣らぬ痰一斗〉
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