2019年2月7日木曜日

●木曜日の談林〔中林素玄〕浅沼璞



浅沼璞








初雪の景くろき筋なし      素玄(前句)
山眉の小袖がさねの朝風に      同(付句)
『大坂独吟集』(延宝三年・1675)

あたり一面の初雪、髪の毛ほども黒い色は見あたらない。

いっけん前句の景は美しいが「くろき筋なし」に談林臭がする。

それもそのはずで、
落ちたぎつ滝の水上(みなかみ)年つもり老いにけらしな黒き筋なし  (忠岑・古今集)
からの本歌取りである。

本歌の滝の白さを雪の白さへと転じてのサンプリング。

その景に対して付句は、雪の山眉(眉のような遠山)と、山眉糸(天蚕糸)の小袖重ねとのダブルイメージを詠む。

「重ね」だけにダブル(?)、なんてシャレたくもなるけれど、前句の景は小袖の柄となり、それを朝風がゆらす、そんな詩情もある。

*作者の素玄(そげん)は中林氏。もとは貞門らしい。西鶴に同じく商人か。

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