2019年4月1日月曜日

●月曜日の一句〔永瀬十悟〕相子智恵



相子智恵






村ひとつひもろぎとなり黙の春  永瀬十悟

句集『三日月湖』(コールサック社 2018.9)所収

福島を詠み続けている作者の句。巻末に置かれた鈴木光影氏の解説によれば、〈ひもろぎ〉とは漢字で「神籬」と書き、神社以外で神事を執り行う際につくられる聖域のことだそうだ。

原発事故によって全村避難を余儀なくされた村が、誰も足を踏み入れることのできない聖域のように静かに、そこに存在し続けている。人間が生み出した人間の存在を超える力が、一村をごっそり、一瞬で誰も近寄れない結界に変えてしてしまったことに、改めて呆然とする。

〈黙の春〉はレイチェル・カーソンの『沈黙の春』も想起させる。〈黙〉は祈りの態度であるのかもしれないが、私には、あまりの事の大きさに思考停止に陥ったその後の私たちの、あるいは無かったことにしようとさえする、見ないふりを続ける八年後の沈黙の態度のようにも思われた。

「むらひとつひもろぎとなりもだのはる」と音読すると、MとR音の口籠る音と、H音の息を漏らすしかない音の連なりに、思考停止状態の、意志を持たない幼い大人の私たちが、力なく映し出されてくる。

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