樋口由紀子
母さんのそばを離れちゃいけません
鈴木せつ子 (すずき・せつこ) 1931~
物騒な世の中だから、知らない人に声をかけられてもついて行ってはいけませんよといっているのかと思ったが、まったく見当はずれだった。掲句は題詠吟。題はなんと「一万円」。あまりにも意外な姿で立ちあらわれて、椅子から転げ落ちそうになった。
川柳の句会は題ごとに選者が入選句を披講して、作者が名乗りを上げる。この句も読み上げられたときはさぞ会場は沸いただろう。川柳は「見つけ」を大事にする。他人の気づかないところを見つけて、はっとさせる。そして、ユーモアのエッセンスを撒き散らしながら、共感ラインにぴたりと着地させる。題とセットで味わうのも川柳ならではの技である。「杜人」(261号 2019年春)収録。
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