樋口由紀子
世界からサランラップが剥がせない
川合大祐 (かわい・だいすけ) 1974~
透明で薄くて、すぐにでも剥せそうなサランラップは一見はかなさそうに見えるが、電子レンジにも対応できるほど手強く、強靭さを持っている。サランラップは冷凍冷蔵庫や電子レンジで日常生活に欠かせないものだが、もともとは食品用に開発されたものではなく、戦場などで銃弾や火薬などを湿気から守るために開発されたものであり、その生まれからしてもなにやらいわくありげである。
世界と自分を遮断するものがある。薄っぺらで向こうははっきりと見えるものを境にして、そのたった一枚があるだけで世界に接触しようとしても直に触れられず、思いのままにならず、加わることもできない。世界とは何なのか。近づけない、近づかせない、よそよそしくて、不気味なものが世界なのだろうか。世界に対してのもどかしさやどうしようもなさを感じる。そこに立つしかなく、そのように世界を見ている自分を内省的に観察している。『スロー・リバー』(2016年刊 あざみエージェント)所収。
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