相子智恵
酒かへる度に乾杯今熱燗 大文字 良
句集『乾杯』(邑書林 2019.11)所載
呑む酒の種類を変えるたびに乾杯をするというのは何とも楽しい。おそらく最初はビールで乾杯したのではないか。そのあとは日本酒の冷(ひや)かもしれない。いろいろ呑んで、今は熱燗なのである。
〈酒かへる度に乾杯〉をしたということは、居酒屋でありがちな、それぞれがバラバラに好きな酒(カシスソーダだとかグラスワインだとか)を自分のタイミングで頼むスタイルではなく、壜や徳利で頼み、皆で同じ酒を分かち合って楽しんでいるのだということが推測される。「次はこの銘柄呑んでみようか」「いいね」「さあ来たぞ、乾杯だ」「乾杯!」などというような、酒の趣味も合う気の置けない仲間なのだろう。酒を分かち合うと同時に、酒を尊重する気持ちも皆が分かち合っていることが感じられる。
〈酒かへる度に乾杯〉だけでも十分に宴会の楽しさがあって、他の季語を入れても合うかもしれない。けれども〈今熱燗〉の、落語のサゲのようにトトンと調子よく下五を畳みかけるスピード感、臨場感は何物にも代えがたい。熱燗なので、だいぶ酒が進んだ頃のように感じられる。〈今熱燗〉のとぼけた感じが、さらに一句の楽しさを引き出しているのである。
0 件のコメント:
コメントを投稿