2020年1月6日月曜日

●月曜日の一句〔浅沼璞〕相子智恵



相子智恵







犬の子やかくれんぼする門の松   一茶
  尻尾のふえて揺るゝ初夢    

句集『塗中録』(左右社 2019.11)所載

俳人であり、連句人(レンキスト)である浅沼璞氏の初句集。故人の発句の「脇起し」(古人の句・夢想の句など、一座していない人の句を立句として、脇の句から作り始めること)の章から引いた。

一茶の発句は、門松のかげに隠れている犬の子。頭は隠れているのだけれど、尻尾は見えているのかもしれない。犬は〈かくれんぼ〉という遊びをしているつもりはもちろんないのだが、一茶らしい捉え方だ。かわいらしくて、新年のめでたさがある。

そこに璞氏の脇句〈尻尾のふえて揺るゝ初夢〉が付いて、めでたさの中に怪しさがほのと出てきた。〈尻尾のふえて揺るゝ〉は、猫又のように尻尾が増えた妖怪を思う。さらには、ちぎれんばかりに尾を振る犬のかわいさも想起させた。漫画の表現では、尾を振る速さを表すのに、尾を何本も増やして描くことがあるが、そんな表現を感じ取ったのだ。もしかしたら単純に子犬がたくさん増えたのかもしれないけれど。夢の中のことだから、こちらも自由に読んでみたい。

そもそも〈かくれんぼ〉からの〈初夢〉は、夢幻能を観ているようだ。また〈ふえて揺るゝ〉には、豊作や繁栄など新年の願いと重なるところがある。怪しいけれど、めでたい心が通じている。

一茶の発句の鑑賞で、私は「頭は隠れているのだけれど、尻尾は見えているのかもしれない」と書いたが、一茶の句からはその描写は見えてこない。これは脇句まで読んで生まれたイメージである。

付けながら転じていく連句。それを自由にイメージを広げて読むのは楽しいものである。

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