樋口由紀子
歩くのがあきて今度は平泳ぎ
村上てる (むらかみ・てる)
健康とダイエットのためにウオーキングをしていたのだろう。しかし、代わり映えしない景色に、退屈で飽き、目線を変えようと、次はスイミングを始めた。ランニングではなく歩くだったから、今度もクロールでなく、平泳ぎ。バランスが取れている。なんとしてもという必死さがなく、がんばろうという意気込みも希薄である。他の泳法でがんばっている人たちを横目に、水に顔をつけないでのんびりと泳いでいる作者の姿が目に見えそうである。
今を生きている感があり、特別なことがなにもない、ごくふつうの生活そのもの、そのままの手触り感がいい。平泳ぎにあきるのも時間の問題のような気がする。〈平泳ぎにあきて歩くのに戻る〉の句を何か月後かに見られるような気がする。「おかじょうき」(2020年刊)収録。
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