2020年11月23日月曜日

●月曜日の一句〔竹村翠苑〕相子智恵



相子智恵







虎挟みの狸殺して流したり  竹村翠苑

句集『豊かなる人生』(2020.10 朔出版)所載

〈虎挟み〉は罠。罠にかかった狸を殺して川に流したという、実に即物的な句である。作者は98歳にして、長野県の大町で現役で農事を営む。畑を荒らされないように、狸を殺さなければならないのだ。

南信州の私の祖父も農を営んでいた。家はテレビの「ポツンと一軒家」みたいな山の中にあって、祖父は冬には猟友会として山で猟をした。庭で兎の毛を毟って食べさせてくれた兎汁は、その一部始終が子供心に衝撃的で、ほとんど泣きながら食べた。

祖父の通夜の日、久々に祖父の畑を歩いていたら、隅に鉄屑で檻が作ってあって、中に烏賊の内臓が棒切れに刺して置いてあった。あまりにも唐突なその光景に、家を守る伯父に聞くと、畑を荒らす狸を捕まえるための即席の狸罠だという。狸が烏賊のワタを食べるのかしらと思ったが、祖父を出棺する翌朝、無事にかかったと聞いた。狸は見なかったが、殺したのだろう。

掲句にそんな祖父の畑を思い出した。〈鍬の先はね返したり旱畑〉〈踏み潰す土竜一匹秋暑し〉など土の匂いを感じる句群は、今の時代、もはや貴重なものとなっている。

 

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