樋口由紀子
バス二回乗り継いでから深緑
小林康浩 (こばやし・やすひろ) 1957~
最初は新緑が美しいと評判のところに行くのにはバスを二回乗り継いで行かねばならないのかと思った。不便で、人も少なく、開発されていないから、山や森の緑は守られている。そこでやっと新緑を愛でることができる。新緑を見るのもごくろうなことである。
しかし、よく見ると「深緑」だった。濃いふかみどりである。そして、「乗り継いでから」とある。「濃いふかみどり」は人生の行きついたところだろうか。「バス」は仕事かもしれない。二回転職をして、バスでガタガタ道を揺られるように、慣れない仕事をどうにかこなしてきた。そして、「深緑」に巡り合えた。そうしなければ出会うことも気づくこともがなかった。深緑に出会えたから、バス二回乗り継いだことを感慨深く、あらためて振り返っているのだろう。『どぎまぎ』(2020年刊)所収。
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