相子智恵
林檎嚙む林檎のなかに倦みし音 小池康生
句集『奎星』(2020.10 飯塚書店)所載
例えば林檎と梨では噛んだ時の音が全く違う。梨は「シャリッ」としているけれど、林檎は「タリッ」という感じ。「カリッ」よりももう少し鈍くて実が詰まっている感じだ。梨よりは明らかに鈍い。その音を〈倦みし音〉とは、なるほど感覚の鋭い把握である。
特に少し萎びて弾力がなくなってきた頃の林檎(筆者の出身の長野県では、これを「林檎がぼける」と言った)も、まさに掲句のように〈倦みし音〉だと思う。梨ももちろん萎びると「シャリッ」とはしないのだけれど、それでもこの〈倦みし音〉は林檎特有のもののように思える。
音に対する感覚の鋭さだけではなく、これは作者の心の中とももちろん繋がっているのだろう。林檎を食べている時の物思いも、〈倦みし音〉には含まれているのである。
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