相子智恵
空少し広うなりたる盆の明 關 考一
空少し広うなりたる盆の明 關 考一
句集『ジントニックをもう一杯』(2021.6 ふらんす堂)所載
立秋の頃にはまだ感じられずにいた秋の空気を、盆明けあたりになると、ふと感じることが多い。〈空少し広うなりたる〉に、そうそう、この感じだと思う。まだ「秋高し」のような広々とした秋の空ではないのだけれど、入道雲ではなく、秋のうっすらとした筋雲が時々現れるようになって、空は確かに少しだけ広くなったような気がする。
盆明けや異界の如き会社へと
という句もあって、こちらの盆明けは軽く笑いを誘いつつも〈異界の如き〉という盆明けの出社の感じはよく分かる。本来なら、お盆の数日間が異界に近いはずなのだが、そちらにいた身としては、会社という現実こそが異界なのだ。それを打ち消すように、膨大な仕事がやってきたりして、あっという間に異界は日常になってしまうのだけれど。
それにしてもコロナ禍の盆明けの出社を思いながら読む掲句は、また妙な感じが加わる。皆さま、どうかご安全に。
送り火はこの世とあの世を隔てる行為で、精霊が帰ってしまう淋しさがあるけれど、掲句の雨は、この世とあの世の間を等しく湿らせている。ということは、送りつつ、つながるのだ。この世の私も、あの世の精霊たちも等しく雨に濡れていて、その何と安らかなることか。
自分に身近な送り火を思うと同時に、掲句には〈五山送火 二句〉と前書きが書かれている。京都の五山の送り火を思うとまた、味わい深い。
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