2021年8月20日金曜日

●金曜日の川柳〔所ゆきら〕樋口由紀子



樋口由紀子






帰りかけるとふりむけと言う石

所ゆきら (ところ・ゆきら)

京都龍安寺の石庭の連作の一句だと聞いたことがある。それにしては風変わりである。帰ろうとすると、石がもっとよく見ろ、ちゃんと見たのか、もう一度見直せとか言ったのだろうか。命令口調だが、石の顔は笑っているみたいで、だから、さほど気にしているわけではなさそうである。

大昔の日本では石に限らず、草や木がものを言うと信じられていた。しかし、掲句はそんなアニミズム的な思想からのものではないだろう。かといって、寓話性を帯びているというのでもないだろう。そう言いながらも、石は終始変わることなくは超然とそこに存在している。石にかぎりないシンパシーを感じている。不自然さと作為性はコミカルな非現実的な空間を立ち上げている。

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