樋口由紀子
しかしもう歯が一本も無いのです
きゅういち1959~
急にこんなことを言われても困ってしまう。作者の哀歓はいっさい書かれていない。さほど気にしていないのかもしれないが、これから歯が一本も無い状態で世界と向き合っていかねばならないのは確かである。
異なった文脈から突然あらわれたような「しかしもう」の間の取り方が巧みで、不意をつかれる。生きている情けなさや逞しさをあっけらかんと極単純なかたちでひょうひょうと表現している。突き抜けてしまった天然性、楽天性があり、シャープでスコンと抜ける。きゅういちの川柳はおもしろくてかなしく、それでいてかわいく、そしてこわい。自己の現在性を鮮やかに浮かび上がらせる。『ほぼむほん』所収。
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