相子智恵
繭玉が揺れ浅草の揺るるかな 福井隆子
繭玉が揺れ浅草の揺るるかな 福井隆子
句集『雛箪笥』(2021.9 ふらんす堂)所載
紅白の餅を団子状に丸めて、柳の枝などにつけた正月の飾り木「繭玉」は、繭の豊かな収穫を願うことから始まったもので、餅花ともいう。繭玉を模したプラスチック製の飾りなどは商店街の正月飾りとしてよく見かける。本物ではないことに興覚めする向きもあろうが、私はこういう既製品の何ともいえないレトロさも好きだ。
掲句、「浅草」という土地の名前がよく活きている。この繭玉は仲見世通りに飾られたものだろう。浅草寺の参道の左右に整然と立ち並んだ店の屋根から、ずらりと突き出した繭玉(正確にはそれを模したものなのだろうが)。風に繭玉が揺れれば、まるで浅草全体が揺れているようだという。繭玉は風だけではなく、人々の熱気のうねりによって揺れているようにも思える。浅草の新年は、じつに華やかで壮観。その雰囲気を大きく捉えた一句である。
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