相子智恵
真開きに河豚の鰭干す壇ノ浦 千々和恵美子
真開きに河豚の鰭干す壇ノ浦 千々和恵美子
句集『飛翔』(2021.11 文學の森)所載
河豚の鰭は、戸板などに広げて貼りつけて干す。〈真開き〉に、一つ一つの鰭を扇のような形にぐっと広げて干しているのだということが分かる。蝶の標本のようにびっしりと戸板に貼られた河豚の鰭を見たことがあるが、グロテスクかつ美しくて、奇妙な気持ちになった。鰭酒はおいしかったけれど。
下五に置かれた〈壇ノ浦〉が、この句の奥行きを決定づけている。全国随一の河豚の名所である下関の地名として中七までの景の解像度を上げながら、「壇ノ浦の戦い」という歴史を重層的に響かせていて見事だ。ピシっと〈真開き〉に開かれ、黒光りした河豚の鰭は、兵士たちの甲冑や関門海峡の鋭い波がしらを遠くにイメージさせるのである。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿