浅沼璞
奥様国を夢の手まくら 西鶴(裏四句目)夏の夜の月に琴引く鬼の沙汰 仝(裏五句目)
『独吟百韻自註絵巻』(元禄五・1692年頃)
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琴引く(弾く)主体は付句だけなら鬼と読めますが、前句を受けると奥様とも読めます。
楠元六男氏は〈奥様が、玉琴をひきさして、夢をみる。その夢に「琴引く鬼の沙汰」が登場する。いかにも『酒吞童子』を連想させる世界〉と解釈しています。【注】
よって句意は「夏月に琴を弾きさした奥様が、琴弾く鬼の夢を手枕にみる」といった感じでしょうか。
よって句意は「夏月に琴を弾きさした奥様が、琴弾く鬼の夢を手枕にみる」といった感じでしょうか。
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〈『酒吞童子』を連想させる世界〉というのは西鶴自註に依拠したものと思われます。
自註をみましょう。
「爰(ここ)は俳諧の俳諧也。惣じて夢は定めがたき物なれば、前句に付けよらぬ事を出し侍る。宵にあそばしたる玉琴は、ありのまゝにして、御気は格別の事に移り、はるかなる唐土の虎を見し野辺、岩屋に籠る鬼の遊楽を見させ給ふ御夢物語りのさまにいたせし也」
意訳すると「ここは俳諧中の俳諧といっていい最も俳諧的な局面。総じて夢は不安定な物なので、ふつう前句に付けないような事をわざと出します。宵に演奏なさったお琴はそのまま放置し、お気持ちは格別の事に移り、遥か中国の野辺に見られる虎や、岩屋に住む鬼の遊楽をご覧なさる夢物語のさまを付句に致したのでございます」といった感じです。
知られるように『酒吞童子』に代表される日本の伝承説話では、多くの鬼は岩屋に居住し、人里に出ては美女・財宝を略奪。あげ句に岩屋で宴会に興じました。
「爰(ここ)は俳諧の俳諧也。惣じて夢は定めがたき物なれば、前句に付けよらぬ事を出し侍る。宵にあそばしたる玉琴は、ありのまゝにして、御気は格別の事に移り、はるかなる唐土の虎を見し野辺、岩屋に籠る鬼の遊楽を見させ給ふ御夢物語りのさまにいたせし也」
意訳すると「ここは俳諧中の俳諧といっていい最も俳諧的な局面。総じて夢は不安定な物なので、ふつう前句に付けないような事をわざと出します。宵に演奏なさったお琴はそのまま放置し、お気持ちは格別の事に移り、遥か中国の野辺に見られる虎や、岩屋に住む鬼の遊楽をご覧なさる夢物語のさまを付句に致したのでございます」といった感じです。
知られるように『酒吞童子』に代表される日本の伝承説話では、多くの鬼は岩屋に居住し、人里に出ては美女・財宝を略奪。あげ句に岩屋で宴会に興じました。
「琴引く鬼の沙汰」の「沙汰」にはこうした背景が見込まれていたに違いありません。
では最終テキストにいたる過程を想定してみましょう。
夏の夜の琴をひきさす月をみて 〔第1形態〕
↓
夏月の虎ふす野辺に琴ひきて 〔第2形態〕
↓
夏の夜の月に琴引く鬼の沙汰 〔最終形態〕
このように最終形態は虎(生類)から鬼(異物)へと夢物語を広げ、恋句から離れているように思われます。
「どや、これぞザ・俳諧やで」
けど、ちょっと前に「化物」って異物がありましたけど……。
「ちょっと待ってや(焦)……ひー、ふー、みー、三句去りで打越は離れとるで(安堵)」
三句去り……ぎりぎりっすね。
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では最終テキストにいたる過程を想定してみましょう。
夏の夜の琴をひきさす月をみて 〔第1形態〕
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夏月の虎ふす野辺に琴ひきて 〔第2形態〕
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夏の夜の月に琴引く鬼の沙汰 〔最終形態〕
このように最終形態は虎(生類)から鬼(異物)へと夢物語を広げ、恋句から離れているように思われます。
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「どや、これぞザ・俳諧やで」
けど、ちょっと前に「化物」って異物がありましたけど……。
「ちょっと待ってや(焦)……ひー、ふー、みー、三句去りで打越は離れとるで(安堵)」
三句去り……ぎりぎりっすね。
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【注】『元禄文学の開花Ⅰ』(勉誠社)「元禄俳壇と西鶴」
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