2022年4月18日月曜日

●月曜日の一句〔杉原祐之〕相子智恵



相子智恵







嬰児に顔まさぐられ春の夜  杉原祐之

句集『十一月の橋』(2022.04 ふらんす堂)所収

赤ん坊が目で見たものを手で触ろうとするのは、だいたい生後4ヶ月くらいからだが、この時の赤ん坊の視力は0.04~0.08くらいしかないから、ほとんど見えていない。視力が1.0になるのは4~5歳くらいである。

掲句、赤ん坊を抱いているか、あるいは添い寝をしているのだろう。その間ずっと顔をまさぐられ続けている。赤ちゃんは、ぼんやり見えたものを興味深く触っているのである。手はきっと、よだれでベトベトだ。よだれまみれの手で顔をまさぐられる、暖かく湿った春の夜というのは、はたから見ればちょっと気持ち悪くもあるが、親にとってはそのような為すすべのなさも喜びなのであろう。

吾子俳句でも決して甘くはなく、どこか不思議な気味の悪さがあって、だからこそ「生きている」という実感が乗った句だと思った。

1 件のコメント:

  1. 好意的な鑑賞有難うございます。鑑賞の通り何とも不思議な気分になってできた俳句です。

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