相子智恵
桜狩山に憑かるるごとく来て 鈴木玲子
桜狩山に憑かるるごとく来て 鈴木玲子
句集『桜狩』(2022.02邑書林)所収
桜に取り憑かれる……ならば、類想の多いところだと言えようか。そこを少しずらして抜けていると思うのが〈山に憑かるる〉の〈山〉である。桜に取り憑かれたのではなく、山に呼ばれるようにして桜狩に来たのだ。普段は緑色の静かな山が突如、桜を妖術のようにぽわぽわと咲かせて、人を我先にと〈桜狩〉に駆り立てる。山が生きていて、桜はその妖術が見せた幻のようだ。例えば千本桜の吉野山は、信仰の証として桜が献木された山だが、なるほど人が取り憑かれそうな山でもある。
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