樋口由紀子
満月の夜には瓶の蓋が開く
谷口義 (たにぐち・よし)
あたりはしんとしていて、瓶の蓋が開く音が聞こえてきそうである。いくらがんばってもびくともしなかったジャムの瓶の蓋がすっと開いたのか。開けるつもりのない薬草の瓶の蓋がひとりでに開いたのか。それとも大人一人が吸い込まれるくらいの、あるいは出てくるくらいの大きな瓶の蓋が開いたのだろうか。
今日は満月の夜。「満月の夜には」だから、満月の夜以外は瓶の蓋は開かない。あの暗くて明るい満月の夜は特別感と違和感があり、いつもの場が変容する。同時に心の蓋も開く。蓋が開いたことがきっかけに新たな何かが始まる。『卑弥呼の里誌上川柳大会集』(2021年刊)収録。
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