相子智恵
蛍火のかうもりがさをぬけいでし 京極杞陽[1908-1981]
蛍火のかうもりがさをぬけいでし 京極杞陽[1908-1981]
山田佳乃著『京極杞陽の百句』(2022.04 ふらんす堂)所収
鑑賞本『京極杞陽の百句』より引いた。掲句は1975年の作で、元は杞陽の遺句集『さめぬなり』(1982刊)に収録されている。
山田氏の鑑賞には、〈和田山えぼし句会の六月は「蛍を見る句会」であった。この頃すでに蛍が少なくなっていたようで毎夜探してようやく養父の米地谷に決定したという〉と、句作の背景が記されている。
雨の蛍狩りだったのだろう。傘の中に蛍がすうっと入り、そのまま抜け出ていった。入ってきた瞬間の驚きではなく、抜け出ていった別れの儚さの方を描いている。蛍火以外はすべて平仮名なのが印象的だ。漢字の蛍火にまずはギュッと視点を集中させておいて、〈かうもりがさをぬけいでし〉のゆるやかな平仮名の流れにのって、蛍火がゆっくりと遠ざかっていく。言葉の意味からだけではなく、表記からも動きが見えてくるような、杞陽らしいゆったりとした一句である。
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