相子智恵
天道虫とまり背中の広くなる 松野苑子
天道虫とまり背中の広くなる 松野苑子
句集『遠き舟』(2022.04 角川文化振興財団)所収
背中や肩、頭などに虫がとまることは、わりと多くの人が経験していることだろう(私が山育ちだからそう思うだけなのだろうか……実はそんなに多くないのかもしれない)。
前を行く人の背中に天道虫がとまった。天道虫がとまったことによって背中が広くなったという把握には一瞬驚き、その後なるほど、と思う。天道虫のあの小ささ、丸っこさ、色と模様の美しさ、ちびちびと歩く姿。その一点を見つめた後に、もう一度背中全体に目を向ければ、確かに天道虫にとって人の背中は丘のように広い。そして、天道虫の視点になることにより、後ろから見つめる人間にとってもまた、人の背中は広いという新たな捉え直しが起きるのである。
〈背中の広くなる〉のパーッと開けていくさまが楽しくて、これは可愛らしい天道虫ならではの味わいだな、と思う。実際には天道虫を払う時には注意しないと臭い黄色い汁を出すし、厄介な虫なのだけれど。
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