相子智恵
青蘆やふたりが遅れつつ五人 森賀まり
青蘆やふたりが遅れつつ五人 森賀まり
句集『しみづあたたかをふくむ』(2022.4 ふらんす堂)所収
『しみづあたたかをふくむ』の句集名は七十二候、1/10~1/14頃の「水泉動(しみずあたたかをふくむ)」。最も寒い季節に、それでも氷はほんの少しずつ融け出していて、春の水となって沁み出していく……という頃だ。まさに、句集全体から、寂しいけれども、仄明るいあたたかさが静かに滲み出していて、こちらの心に染みわたってくるようだった。
鑑賞したい句はたくさんあるのだが、今回は「人」を描いた作品に注目した。掲句は夏。人の背丈を越えるほどの青蘆の生えた水辺を、五人で歩いている。吟行かもしれない。話しながら、あるいは立ち止まったり黙り込んだりしながら、ゆるゆると歩く。二人は遅れつつあって、青蘆にかくれて見えないのだろう。しかし見えなくても、それはあくまで五人なのだ。この、見えなさ、遠さも是としつつ、ゆるやかにつながる感じが、氏の人との交わり(それは見知らぬ人も含めて)を描いた句には多くて、いいなあと思う。
私より急ぎゐる人若楓
鉾を解く人の行き来が空にあり
末枯れて足あたたかに人の家
月の友夫の話をしてくれし
宵山の人の重みの中に在り
川の子を呼べば上がりぬ烏瓜
氏が描く人の世界は、人同士の輪郭がくっきりしてはおらず、人も水のように、輪郭に波紋があるように私には感じられた。その波紋と波紋が、いつかどこかで触れ合ったりすれ違ったりして共鳴する。水輪の芯に近い親しい人との共鳴も、通りすがりの人との遠い共鳴もあって、水はつながっているのだけれど、水の芯は侵されない感じで、少し孤独もある。
寂しいけれどもあたたかい、そうした水のような交わりが、心地よくこちらの心に沁み込んでくる。
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