樋口由紀子
うれしそうでしたうれしくなってくる
小梶忠雄 (こかじ・ただお)
「うれし」をキャッチして、絶妙の間を作り、「うれし」を交差している。どちらも主語は異なり、省略されている。前者は他者で後者は作者だろう。「うれしそうでした」とその様子を見て、あるいは、「うれしそうでした」と伝え聞いて、自分の気持ちを「うれしくなってくる」と素直に書いている。
「うれしそうでした」「うれしくなってくる」、たったこれだけの語彙で人の心の機微を拡大し、ほのぼのとした心情を浸透させていく。川柳が得意とする穿ちや皮肉などはここには一切ない。「川柳びわこ」(2022年刊)収録。
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