樋口由紀子
蟻はどんな顔して甘いもの運ぶ
岩井三窓 (いわい・さんそう) 1921~2011
蟻が物を運ぶのは見たことがある。しかし、「どんな顔して」までは気にならなかった。そのだれもが気にとしないところをクローズアップする。蟻は一体どんな顔をしているのかと興味津々にツッコミを入れる。現場的に即物的に話を続けていく手捌きが感じられる。
「どんな顔して」に川柳性が発揮されている。取り立てて言うほどもない些細なことをあえて一句にする作為を徹底させる。甘いものを運んでいるのだから、さぞかしご満悦の顔をしているだろう。そこにこそ、究極のおかしみや哀歓がある。それならば、人は「どんな顔して」生きているのだろうかと気になってくる。
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