2023年12月27日水曜日

西鶴ざんまい 番外篇19 浅沼璞


西鶴ざんまい 番外篇19
 
浅沼璞
 
 
年内に書きとめておきたいことがまだあって、今回も番外編とします。

 
番外篇15(https://hw02.blogspot.com/2023/07/15.html)でも述べましたが、本年は小津安二郎の「生誕120年 没後60年」ということで、いろいろな催し物が各地で目白押しだったようです。

小津ゆかりの地・神奈川では大規模展が神奈川近代文学館(4/1~5/28)で催されましたが、押しつまってからも鎌倉芸術館で「小津安二郎とブンガク展」(12/12~19)がありました。誕生日にして命日の12/12にちなんだ企画でしょう。

 
旧松竹大船撮影所の一角にあるその芸術館に行ってみると、小規模ながらも「ブンガク展」の名にふさわしく、小津旧蔵の谷崎潤一郎・里見弴らの書や書簡が展示されていました。
 
しかし愚生にとって最も興味深かったのは、同じ映画監督の溝口健二との両吟を記した小津自筆の色紙でした。
 
撮影禁止でしたので、メモ帳に写し取った内容を、以下に記します(現物は縦書きですが、改行や字アキなどは極力ママとします)。
小津安二郎 書画
溝口健二の句
 白足袋のすこし
 汚れて 菫ぐさ
そして僕の句
 紫陽花にたつきの
 白き足袋をはく
   小津安二郎
(オフィス小津蔵/鎌倉文学館寄託)
両吟の下には足袋の白描、小津の署名、そして二つの落款(姓名印と関防印か)があります。季重ねながら、両句とも映画のシーンを髣髴させるように感じるのは愚生の僻目でしょうか。

 
溝口といえば『西鶴一代女』(1952年)がまず思い浮かびます。
 
学生時代、西鶴の好色物に興味を持ちながら、『好色一代女』(1686年)だけはなかなか読破できませんでした。なにか文体もストーリーも冗長な気がしてならなかったのです。
 
それが溝口映画の一代女を観てからは、主演の田中絹代のイメージに助けられ、あっさり読了できたというだけではありません。その後、一代女を読むたびに小柄な田中絹代のイメージがたち現れるのです。

 
溝口の白足袋の句を目にした際も、田中絹代ひいては一代女のイメージを打ち消せませんでした。
 
連句の心得のあった小津もまた、田中絹代ひいては一代女の面影を詠んだのかもしれません。

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