浅沼璞
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小津ゆかりの地・神奈川では大規模展が神奈川近代文学館(4/1~5/28)で催されましたが、押しつまってからも鎌倉芸術館で「小津安二郎とブンガク展」(12/12~19)がありました。誕生日にして命日の12/12にちなんだ企画でしょう。
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しかし愚生にとって最も興味深かったのは、同じ映画監督の溝口健二との両吟を記した小津自筆の色紙でした。
撮影禁止でしたので、メモ帳に写し取った内容を、以下に記します(現物は縦書きですが、改行や字アキなどは極力ママとします)。
溝口といえば『西鶴一代女』(1952年)がまず思い浮かびます。
小津安二郎 書画両吟の下には足袋の白描、小津の署名、そして二つの落款(姓名印と関防印か)があります。季重ねながら、両句とも映画のシーンを髣髴させるように感じるのは愚生の僻目でしょうか。
溝口健二の句
白足袋のすこし
汚れて 菫ぐさ
そして僕の句
紫陽花にたつきの
白き足袋をはく
小津安二郎
(オフィス小津蔵/鎌倉文学館寄託)
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学生時代、西鶴の好色物に興味を持ちながら、『好色一代女』(1686年)だけはなかなか読破できませんでした。なにか文体もストーリーも冗長な気がしてならなかったのです。
それが溝口映画の一代女を観てからは、主演の田中絹代のイメージに助けられ、あっさり読了できたというだけではありません。その後、一代女を読むたびに小柄な田中絹代のイメージがたち現れるのです。
溝口の白足袋の句を目にした際も、田中絹代ひいては一代女のイメージを打ち消せませんでした。
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連句の心得のあった小津もまた、田中絹代ひいては一代女の面影を詠んだのかもしれません。
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