2024年9月4日水曜日

西鶴ざんまい #66 浅沼璞


西鶴ざんまい #66
 
浅沼璞
 

 花夜となる月昼となる   打越
名を呼れ春行夢のよみがへり 前句
 弥生の鰒をにくや又売る  付句(通算48句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)

【付句】二ノ折・裏12句目。 弥生=春。 鰒(ふぐ)=本来は冬。産卵期の春は毒性が最も強く、菜種河豚という。

【句意】三月の河豚を憎いことにまた売っている。

【付け・転じ】前句の甦った人の苦しみの原因を毒河豚とし、魚売りへの憎しみに転じた。

【自註】「*時ならぬ物は食する事なかれ」とふるき人の申し伝へし。前句の病体は、毒魚(どくぎよ)の*とがめにして、なやみたるありさまに付け寄せける。又、その折ふし、鰒を売る声、いづれもかなしき時の事ども思ひあはせて、魚売りをにくみし。
*時ならぬ物は……=「時ナラザルハ食らハズ」(論語)。 *とがめ=中毒

【意訳】「季節外れのものは食べてはならない」と古人は申し伝えた。前句の病体の句は、毒河豚にあたって苦しんだ有様で、それに付け寄せた。また、そのような時、河豚を売る声(を聞き)、みな(病人の)気の毒な状態を想起して、魚の行商人を憎んだ(と句作した)。

【三工程】
(前句)名を呼れ春行夢のよみがへり

時ならぬもの食するなかれ   〔見込〕
  ↓
  弥生の鰒になやみたるさま   〔趣向〕
    ↓
   弥生の鰒をにくや又売る     〔句作〕

蘇生した人の不調の原因を季節外れの食中毒とみて〔見込〕、〈春にどのような食中毒があるか〉と問いながら、菜種河豚と思い定め〔趣向〕、「行商人の売り声に対する憎悪」を題材とした〔句作〕。

 
ちょっと調べたんですが、大矢数に〈命知らずや河豚汁の友/床に臥し肩で息して北枕〉って付合がありますね。
 
「そやな、河豚汁は何句か詠んだはずや」
 
でもまだ息があるのに〈北枕〉ってひどいんじゃないですか。
 
「備えあれば憂いなし、いうやろ。北枕の準備あれば、逆に生き返るいうもんや」
 
はぁ、また諺ですか……。

0 件のコメント:

コメントを投稿