2024年9月2日月曜日

●月曜日の一句〔矢島渚男〕相子智恵



相子智恵






何をしにホモ・サピエンス星月夜  矢島渚男

句集『何をしに』(2024.7 ふらんす堂)所収

ホモ・サピエンスは、今の私たちの直接の祖先。ホモ・サピエンスがそれまでの人類と違ったのは、言葉を操るようになったことであった。言葉によって物事を複雑に考えられるようになり、環境への適応力が増していったといわれる。

さて、掲句。ホモ・サピエンスは進化の過程で生まれたのであって、「何かをするために」地球上に登場してきたわけではない。だから、掲句はもちろん、今の私たちに向けた批評をもった上での「何をしにきたのか」なのだろう。いったい私たちの祖先は、何をしにこの地球に現れて、そこからはるか進化した後の私たちは、実際に何をしてきたのか。あるいはこれからも続く進化の過程で、何をする(しでかす)のか。

  酢海鼠を残人類としてつまむ

  人類は涼しきコンピューター遺す

  ヒト争ひ極地の氷溶けつづく

そんな批評眼が背後にあることは、本書にこのような句があることからも分かる。様々な星が瞬く〈星月夜〉に、地球に現れたホモ・サピエンス(の末裔である私たち)は、地球に〈何をしに〉きたのだろう。私たちは、このたくさんの星空の中のひとつである地球にとって、どんな存在なのであろう。

 

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