『俳句』2009年2月号を読む
上田信治
●特集「いま、注目する俳句と俳人」 p.59-
副題に「『俳句年鑑2009年版』の「諸家自選五句」(3475句)に見る」、惹句のような感じで「俳壇の新しいテーマや潮流はこれだ!」とあります。
実は、自分も、今年初め、年鑑の「自選五句」を通読しました。
『週刊俳句』で、天気さんと「年代別収穫」のページについてBBS対談をやらせてもらいまして、毎年のことですが「これで、全部じゃないだろー」「各年代担当者の選句眼に、そうとう左右されてるだろー」と思い、ほらほらちゃんとこっちも見ないと、と言いたいという、いわばリベンジのつもりで臨んだのですが、これが、大変こたえる作業で、一日では終わらないわけです。
約700人3500句といえば、ざっと句集10冊分。
作家の今年1年の成果としての5句は、たとえばその方々が句集を出されるとしたら、エッセンスの部分にあたるはず(7年に1冊だされるとして、5×7=35。だいたい収録作の10%強)・・・なんですが、じゃあ、それを読むことが、めくるめく経験かっていうと、だいたいご想像の通りです。
その労苦を共有された矢島渚男・池田澄子・中嶋鬼谷・出口善子・寺井谷子・遠藤若狭男・中西夕紀・仲 寒蝉・山西雅子・小川軽舟 の諸先生が、それぞれ、もらされた「感慨」が読みどころです(多くの方が、深くため息をついているように見えます)。
「俳句という文芸は発生の当初から、面白くなければならないという課題を背負ってきた。ほんとうは面白くなければ俳句ではないのだ。「面白さ」にはいろいろあるが、古来「新しさ」こそがもっとも重要な要素であった」矢島渚男
「一つの方向を決めて皆で走れば確実に俳句はやせる。新しさは方向も方法も前もって決められない。(…)気がついたらさまざまな新しい俳句が、さまざまなところに脈絡無く現れていた、というのが理想だ。佳い句は新しく、新しい句は佳い句なのである。」池田澄子
「句集などが送られてきて、これは、と思う若い俳人も二、三あるが、残念ながら『年鑑』の「諸家自選五句」欄には記載されていない。」出口善子
「二つのものが幅を利かせているように思った。一つは季語周辺のものを、技巧的に描いた(…)名付けるなら写生モダンと言いたいもの」「その一方で(…)現実の自分から離れて自分を詠っている感触の句で人事句の最近の詠い方のように思われる」中西夕紀
「確かに多くの人が同じ方向を目指していたような時代の力強さはないかもしれないが、逆にこれ程様々な傾向の俳句が存在する時代はかつてなかったのではなかろうか」仲寒蝉
「今俳句にとってなすべきことは個の場所を懸命に耕すこと。そして傾向が違うというだけで他者の仕事を切り捨てないことではないだろうか」山西雅子
「新しさ」「多様性」「寛容」そんなキーワードが浮かんでくる、2009年初頭でした。
せっかくなので、自分も選んだ句をあげます。…ちょっと勇気いりますね。
綿虫や突つ支ひ棒に日が当り 小笠原和男
いっぽんの苧環の景雨また雨 小宅容義
いつまでも日は西にある牡丹かな 大峯あきら
蟷螂の両眼のやや離れをり 長田等
数へ日や一人で帰る人の群 加藤かな文
青空に用あるごとく出初式 櫂未知子
晩年は下駄履きでくる鯰かな 柿本多映
なが\/と岬が春をひろげけり 倉田紘文
窓枠に久しき窓や鳥の恋 桑原三郎
鯨より小さかりけり捕鯨船 小林貴子
砂嘴ひとつ海より生るる初景色 佐藤郁良
生きてゐてよかつた柿の種たひら 鳥居真里子
降る雪に立喰ソバは鋭き香 中村堯子
流木に腰掛けてゐる帰省かな 古田紀一
白兎吊り提げられし長さかな 山田弘子
冬の雨鬱の字に似てマンドリル 山根真矢
烏賊およぐ神に吸はるるその泳ぎ 吉本伊智朗
○を打った句はもっとたくさんあります。いや、けっこう「面白い」んですよ。
たしかに、新しくはな・い・・・か。
でも、けっこう面白いけどなあ・・・と、俳句の将来に責任のない立場は、気楽です。
そうそう。自選五句中の「週俳」掲載句。(見落としあったら、すいません)
暮れ残る十一月のどんぐりも 加藤かな文
夕風のなかなか迅し夏桔梗 千葉皓史
蟻止まり有象無象を見上げたる 中田剛
これは、うれしかった。ありがとうございます。
●合評鼎談 p.151-
今年の合評鼎談は、本井英さんと今井聖さんのバトルが楽しみ。
互いの推薦句の鑑賞も、けっこうですなー、で終わらないので、熱が入ります。
●「17文字の冒険者」p.210-
ときどき「俳句を読む」をご執筆の、野口る理さんが寄稿。
ふらここに恐ろしき音ありにけり 野口る理
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現代は、自由な俳句が、多く発表できる時代だと言うことを実感する。時代が、そうだから。
返信削除他の新しさも受け入れられる時代でもある。
なかなか難しいところもある。これは、人間の特性だから。