●月曜日の一句〔八田木枯〕 相子智恵
相子智恵蝶荒び空は沸騰しつつあり 八田木枯
句集『鏡騒』(2010.9/ふらんす堂)より。
蝶は美しいが、そのふらふらと定まらない飛び方は、どこか破滅的な感じがする。
気の向くままに飛ぶ蝶の〈荒び〉の高揚感に合わせるように、春の空もまた、熱せられた湯のごとくにうねる。
〈沸騰しつつあり〉と、熱湯のように表現された空。やわらかで、なまめかしく、まこと春の情感にあふれた美しい把握である。
〈いちまいの春の空なりやや撓る〉〈てのひらに春のゆふべをしたたらす〉氏が描く春の空はどれも、水分をたっぷりと含んでいて色気がある。
独自の耽美な句世界を残した木枯氏は、したたるような春の空に昇っていった。この『鏡騒』が、氏の最後の句集となってしまった。
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