2012年4月2日月曜日

●月曜日の一句〔八田木枯〕 相子智恵


相子智恵








蝶荒び空は沸騰しつつあり  八田木枯

句集『鏡騒』(2010.9/ふらんす堂)より。

蝶は美しいが、そのふらふらと定まらない飛び方は、どこか破滅的な感じがする。

気の向くままに飛ぶ蝶の〈荒び〉の高揚感に合わせるように、春の空もまた、熱せられた湯のごとくにうねる。

〈沸騰しつつあり〉と、熱湯のように表現された空。やわらかで、なまめかしく、まこと春の情感にあふれた美しい把握である。

いちまいの春の空なりやや撓る〉〈てのひらに春のゆふべをしたたらす〉氏が描く春の空はどれも、水分をたっぷりと含んでいて色気がある。

独自の耽美な句世界を残した木枯氏は、したたるような春の空に昇っていった。この『鏡騒』が、氏の最後の句集となってしまった。

0 件のコメント: