関悦史
晩秋の空は青くてたいくつな 尾野秋奈
先日たまたま大型台風が来たばかりだが、人はそういうことはあまり記憶しない。自然災害の多い折から、静かに澄んだ空ならば恩寵のようなものなのだが。
ただ、この句はそういう方向の話はちょっと置いておいて読むべきもので、季語として馴染みすぎた「秋の空」を「晩秋の空」へと微妙にずらして写実へと踏み込み、大きく澄んだ青さのみを提示している。
ジェームズ・タレルの現代美術作品のように、空を改めて物質として見せ直してくれる、崇高さを帯びてなおかつ気持ちのよい句ともなり得たはずだし、じっさい半ばはそうなっているのだが、下五「たいくつな」は静かな空をあらわすための修飾として働いているのと同時に、語り手本人の感情の次元に句を引きつける(あるいは引き下ろす)役割を果たしている。たとえそれが逆説的に、明るく大らかな讃嘆の言葉となっているにしてもである。
言い方を変えれば、ここには非人間的なスケールのものと、それへの人間的な反応との微細な不和が描かれているのだが、句の重心は自己の心証の方に傾いている。
しかしこの微細な不和は、世界と人間の関係の根幹に横たわるものとも言えるので、「晩秋の空」はそれにどう対応するかという倫理的な問いに近いものとして迫ってくる。いや、ただ在る。
句集『春夏秋冬』(2014.5 ふらんす堂)所収。
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