相子智恵
狐火もわが晩歳も音立てず 酒井和子
『花樹』(2014.11 角川学芸出版)より
狐火は、山野や墓地などの陰湿な地に自然に発生する青白い火花。夜中、音も立てずに青白い火が発光するのは、この世のものとは思えない不気味さだ。
狐火が音を立てずにすーっと光り、消えるのと同じように、自分の晩年もまた、音を立てないで過ぎてゆくのだという掲句。静かではあるが、その静けさはしかし、現実的な人が送る晩年のような、あっさりとした静けさではない。音を立てない物は他にいくつもあり、もっと現実的な物もあるはずなのに、狐火という不気味な無音の光に自分の晩年を重ねているからだ。
老いによって化け物とも近くなるような、現実と非現実が近づいていくような単純ならざる晩年。詩心のある人の晩年は静けささえも面白い。
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