2015年5月4日月曜日
●月曜日の一句〔生駒大祐〕相子智恵
相子智恵
鳥たちのうつけの春をハトロン紙 生駒大祐
「オルガン」1号 「雨中なる」(2015春、編集 宮本佳世乃、発行 鴇田智哉)より
「オルガン」は、生駒大祐、田島健一、鴇田智哉、宮本佳世乃の4人による季刊同人誌。実力派の若手による注目したい同人誌がまた一つ創刊された。
掲句、中七までと全く関係のないものを下五に取り合わせて、詩的飛躍と驚きがある。
〈鳥たちのうつけの春〉からは、「鳥交る」「百千鳥」などの季語に見られるような、鳥たちが求愛行動にうつつを抜かしているさまが浮かんでくる。〈うつけ〉というと「愚か・まぬけ」という意味だが、「ぼんやり・空虚」という感じでもあるので、浮かれるよりも、ぼーっとしているというほうが近いのかもしれない。それもまた春ならばさもありなん、というところである。
こうした中七までの鳥たちの世界と、下五の〈ハトロン紙〉が、不思議と心地よく響きあう。まず〈春を〉と〈ハトロン紙〉の「H」と「R」の音の調子がよい。音読してみると、ころんころんと口の中を転がってゆく。そしてハトロン紙という、片面がテラテラとした光沢のある褐色の薄紙が、鳥たちの軽やかさと遠くに響き、その光沢が〈うつけの春〉の恍惚感とうっとりと響きあう。ハトロン紙の褐色の風合いは、春の野の素朴な土臭さまでも想像させる。
ところでこの句は「芭蕉」をテーマとしたテーマ詠の一句である。一読者の私としては、芭蕉の〈行はるや鳥啼うをの目は泪〉や〈原中や物にもつかず鳴雲雀〉〈雲雀より空にやすらふ峠哉〉などの句をふわりと思ったが、あくまでテーマなので、句を踏まえているかもしれないし、踏まえていないかもしれない。着想のきっかけが芭蕉、あるいは芭蕉の句であっても、完成した一句は作者独自のものとして、純粋に私はこの句に感動したのである。しかし、着想のきっかけがなければこの句は生まれなかったことも確かで、「題詠の恩寵」も同時に思う。
同様に他の3人のテーマ詠も個性的で面白かった。同一のテーマでの競作が読めるというところも、同人誌として「集まる」ことが生む面白さであろう。
●
ハトロン紙は薬莢を包むものとしても使われるところから、
返信削除この光景の後にあるであろう銃声も連想されますね。