相子智恵
バレンタインデー軽量の傘ひらく 黄土眠兎
句集『御意』(邑書林 2018.01)所収
どんどん軽量化されるものの一つに、そういえば傘がある。特に折り畳み傘はずいぶん軽くなったものだ。
掲句、雨のバレンタインデーに軽量の傘を開いている。バレンタインデーと軽量の傘の取り合わせは偶然性を持ちながらも、「軽さ」が共通しているので一句がしっくりくる。
バレンタインデーという、少なくとも日本では軽薄な一日(かつてはチョコレートのプロモーションであったとしても「この日をきっかけに女性から愛の告白をする」という、それでも重みのある概念があったが、それも古くなり、もはや百貨店などでは単純に美味しいチョコレートに行列を作る「チョコレートの祭典」的な軽いイベントに変化している)その人為的で意味も流動し続けている記念日の軽薄さが、進化し続けて軽量化して小さくなった傘と響き合う。
この軽量化された傘は、色合いも軽みのある明るい色を想像させる。明るい傘の色がパッと開く一瞬や、傘の軽さという体感が、概念だけでなく具象的ですっと入りやすい。
明るくて軽薄で、俳味があって、景もよく見えてくる好きな一句である。
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