相子智恵
桃咲いてしんじつ星の滅びゆく 塩野谷 仁
句集『夢祝』(邑書林 2018.3)所収
「桃が咲いている。まったくもって本当に星は滅びゆくのだな」という句。桃からの流れで星が滅ぶというのは、意外な流れでありながら詩的にすっと心に入ってくる。
桃の花のわさわさと咲くイメージが、そのまま夜にびっしりと輝く星の多さにスライドしていく。この花もこの星も、今は咲き、あるいは輝いているけれどすべては滅びの過程にあるのだ。
桃の花には田舎じみた向日的な明るさがあって、それが星々の寿命という暗く静かな絶望感と重なると、なんだか今、目の前にあるすべてのものが夢の中のできごとのように遠く感じる。
この星はすべての星であろうが、やっぱり桃が咲くこの地球のことを思うのである。
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