相子智恵
万緑の一角揺れて友来たる 佐々木敏光
句集『富士山麓・晩年』(邑書林 2017.11)所収
「万緑」は辺り一面が草木に覆われた、見渡す限り緑という状態だ。特定の草木が意識されてこないので、この季語に向き合うとき、私は頭の中一面に緑のベールがかかったような状態になる。だから、掲句が「木が揺れて」「草が揺れて」などと具体的な物を出さずに、〈一角揺れて〉と何も特定しない大づかみな言い方をしたのがうまいと思った。
ボーっと一面の緑を眺めていると、その一角の緑が揺れて人が現れた。「よお」といった感じでひょっこり現れたのは友人。近所の友かもしれないし、「朋あり遠方より来る、また楽しからずや」というような友かもしれない。瑞々しい緑の中の、夢のような一瞬である。
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