樋口由紀子
花の名を忘れ薬の名を覚え
松岡雅子 (まつおか・まさこ)
確かにと、膝をポンと叩いて、座布団を一枚あげたくなる。実生活をそのまま詠んでいるようだが、忘れたことなんてたくさんあるはずである。その中から「花の名」と特定したところに手柄がある。そう言えば私もそうだと思い当たる。
桜や菊やチューリップなどは誰でも知っているが、花は多種多様で、意外と花の名前のわからないものが多い。たぶん、作者はちょっと前まではわりと知っていたのだ。よく知っているねと言われていたのだろう。それがいまではすっかり忘れてしまって、薬の名を覚えるようになった。薬は間違えて飲んだら一大事だから、どうしても覚えておかなければならない。当然、優先順位はトップになる。「忘れる」「覚える」の微妙なニュアンスが伝わってくる。「番傘」(2018年刊)収録。
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