樋口由紀子
お悔やみのあとで体重計に載る
菊地良雄 (きくち・よしお)
お悔やみに行って、帰ってきてから体重を計った。たったそれだけのことを書いている。だから、それがどうだとは何も言っていないし、伝えようともしていない。亡き人を偲んでいるようでも体重を気にしているようでもなさそうで、何を考えているのかわからない。感情をまったく見せずに一句にしている。
なのに、掲句を読んで、私の感情の方が波打ってきた。物事を見る方向や位置が気になる。それは本質とか一面とかではなく、生きていくことの根っこに触れているような気がしてならないからだ。作者特有の世界観で人や社会を捉えているように思う。わかっているようでわからない日常を私たちは「私」として関わっている。「私」は何を見ているのか。何を考えているのか。独自の川柳的現実を立ち上げている。〈二年後に間違い電話だとわかる〉〈シンデレラ身元調査に泣かされる〉〈骨だけの傘でも泣ける私小説〉 「ふらすこてん」第60号(2018年刊)収録。
0 件のコメント:
コメントを投稿