2019年7月26日金曜日

●金曜日の川柳〔未補〕樋口由紀子



樋口由紀子






煙突に交じって妻が立っている

未補 (みほ) 1989~

我が家から数キロのところの埋め立て地に大きな工場があり、煙突が並んでいる。何本ぐらいあるだろうか。遠くから見る煙突は煙が吹き出しいているときよりも、ただ立っているときの方に存在感があり、何かをしでかしそうで、不気味に立っている。

掲句の煙突は一本ではなく、数本のイメージが私にはある。前を行く妻が遠ざかったと感じたときに、あるいは遅れてくる妻をふと振り返ったときに、妻の姿は煙突の中の一つと見誤えてしまうほど、まるでその中のいるように溶けこんでいる。「交じって」の措辞で日常をはみだし、日常との差異を生み出している。妻は、一瞬、現実の時間からはずれて、過去か未来に移動したようにふわりと浮いているようでもある。妻とのとらえようのない隔たりを静かに見つめている。私は取り残される。「第一回毎週web句会誌上川柳大会」(2019年)収録。

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