樋口由紀子
昭和六十年の桜を見ておこう
柏原幻四郎 (かしはら・げんしろう) 1933~2013
昭和六十年はどんな年だったのかなとまず思った。個人的になにかがあったのか、あるいは世の中に特別の何かがあったのかと思った。御巣鷹山に日航ジャンボ機が墜落し、多くの方が亡くなられたのも昭和六十年だった。しかし、この句は桜の季節だから、それ以前で、その感傷ではない。
昭和六十年に意味を持たせて深読みしたくなるが、そんなものはありませんよと穿っているような気もする。意味を持たせた方が、物語が作れて、容易に感情移入でき、読み解きやすい。一年間には様々な出来事が起こる。何もない一年なんてない。しかし、有ってもなにも無い。今の、その年の、単なる気持ちなのだろう。「見にいこう」ではなく「見ておこう」により意志を感じる。令和二年の紅葉を見ておこうと思った。「川柳瓦版」(通巻313号 昭和60年5月5日刊)収録。
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