相子智恵
秋灯のひとつは島へ帰る船 巫 依子
句集『青き薔薇』(2020.9 ふらんす堂)所載
秋の日はとっぷりと暮れて、家々の明かりや街灯がともる頃、港から海を眺めている。一艘の船の明かりが静かに遠ざかっていく。それは〈島へ帰る船〉だ。島との間の連絡船だろうか。
〈ひとつは〉だから、作者の眼には船の他にも秋の灯が見えている。それは海の向こうにある、船が帰り着く島の街灯や家々の明かりだろう。島はきっとそれほど遠くはないのだ。
点々と街灯がついて、暗い海に浮かぶ島の輪郭がわかる。秋の夜は更けてゆき、やがて船の秋灯も、島の秋灯の一部となる。星々の中に、ひとつの星が帰っていくように。
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