樋口由紀子
木は山にさておふくろの隠し場所
菊地良雄 (きくち・よしお) 1944~
「木は山に」は普通のコトである。しかし、「さておふくろの隠し場所」となると、えっと思う。木は何に使ったのか。母親を隠そうとしている。なぜ隠さなくてはならないのか。「おふくろ」はすでに物のように扱われている。それ以上のコトは何も言っていないが、私の中で恐ろしい想像がどんどん膨らんでいく。
川柳はさまざまな人に成り代わって書くことができる。作中主体が作者とは限らない。しかし、殺人者かもしれない人物を、それも母親を殺したかもしれないような人物を作中主体にすることは小説ではよくあるが、川柳ではほとんどない。「木は山に」と「おふくろの隠し場所」の倒置に一癖あり、事態を急変させる。また、「さて」という副詞が不穏なことを考え、緊迫感を与える。ふつうでないことを一句にし、健全であらねばならないというコードを外している。「ふらすこてん」第55号(2018年刊)収録。
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