樋口由紀子
われわれは絆創膏がよく似合う
樋口由紀子 (ひぐち・ゆきこ) 1953~
歳を取るごとに大きな怪我をしないように慎重に動いているが、その分小さな傷は絶えない。よって絆創膏のお世話になることが多い。若いころは怪我をしても絆創膏を貼るのが嫌だった。割烹着を着たおばさんみたいに思えたからだ。しかし、今はもう十分におばさん。いや、おばあさんになって、血が滲むとあわてて絆創膏を貼る。するとほっとする。絆創膏がよく似合うようになった、そう思いたいのだ。
しかし、「わたしは」ではどうしようもない。個人的な感慨の範疇で終わってしまう。それで大言壮語するごとく「われわれ」とした。複数形にするだけで世界が違ってきて、言葉の世界を作り出せたような気がした。言葉はおもしろいとつくづく思う。「What´s」(創刊号)収録。
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