相子智恵
まつすぐに春田の見えて梳る 江藤文子
まつすぐに春田の見えて梳る 江藤文子
句集『しづかなる森』(2022.03 コールサック社)所収
中七まで読み進めて外の風景なのかと思いきや、〈梳る〉によって室内で髪を梳かす様子に転じる。この予定調和の外し方が快い。きっといつも髪を梳かす時に何気なく見ている窓辺の風景なのだ。
外の風景がしっかり見えることから、夜の入浴後に髪を整えているのではなく、朝の身支度だということが想像される。田は鋤き返されているのか、それとも蓮華草の花の盛りだろうか。いずれにせよ気分は明るい。
部屋から見える田の位置が〈まつすぐに〉なのは、春夏秋冬いつでも変わらないはずなのだが、秋の実りに向けてスタートを切る〈春田〉が選ばれることによって〈まつすぐに〉に清々しい気分が加わっている。
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