2022年7月15日金曜日

●金曜日の川柳〔なかはられいこ〕樋口由紀子



樋口由紀子






長袖を手首でてくるまでが夢

なかはられいこ 1955~

これまで何度も詩歌で書かれてきた「夢」が、思いもつかないところから出てきた。日常性と身体性を与え、意表をつく。長袖のシャツかセーターに手を通していくとまもなく手首がでてくる。たったそれだけの時間が夢だという。もうそれだけで現実の虚ろさを感じさせて、切なくなる。陰影が繊細で、冷めた目がある。

「長袖を」の「を」が巧みで、長袖がまずクローズアップされる。「手首でてくるまで」の動きが映画のワンカットのように残りくまなく行き届いていく。「夢」は説明にならず映像になる。袖を通し終わったらどんな現実が待っているのだろうか。『くちびるにウエハース』(2022年刊 左右社)所収。

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