樋口由紀子
長袖を手首でてくるまでが夢
なかはられいこ 1955~
これまで何度も詩歌で書かれてきた「夢」が、思いもつかないところから出てきた。日常性と身体性を与え、意表をつく。長袖のシャツかセーターに手を通していくとまもなく手首がでてくる。たったそれだけの時間が夢だという。もうそれだけで現実の虚ろさを感じさせて、切なくなる。陰影が繊細で、冷めた目がある。
「長袖を」の「を」が巧みで、長袖がまずクローズアップされる。「手首でてくるまで」の動きが映画のワンカットのように残りくまなく行き届いていく。「夢」は説明にならず映像になる。袖を通し終わったらどんな現実が待っているのだろうか。『くちびるにウエハース』(2022年刊 左右社)所収。
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